雑感:ハセガワ1/350戦艦「長門」(その3)

2007–10–26 (Fri)
(注:この記事には大幅に修正が加えられています。修正前原文は下に記載しています)

 まずキットを開いた方がみな疑問に思われる事だろうと思うのですが、船体には全面に外板モールドがあり、特にバルジ部分を中心に航空機のパネルラインのような長方形状の凹モールドの表現が目を引きます。少なくとも私の記憶では艦船モデルにこのような表現を施したものはありません。

 長門型戦艦に関しては、桜と錨の海軍砲術学校というサイトの戦艦「陸奥」引揚解体写真集のページに於いて、大戦中に爆沈し戦後引き揚げられた船体の詳細な写真が公表されています。これと比較しながらキットのモールドを見てゆくと、艦首と艦尾の水線上の水平面にある凸モールドは段付け継手による外板の重ね合わせを意味している事がわかります。下側の外板の接合部が段になって上と接合する方法で、段状に加工された部分が離れると線のように見えるものです。これは海王丸/日本丸や氷川丸等には見られない接合方法です。また、水線下の凹モールドは板を突き合わせて裏側に当て板を付けて留める単板当金継手を表現しているようですが、上記の陸奥の写真ではバルジの艦底部は船体中心側の板が上に重なる重ね合わせ継手を用いているようです。

 原書房刊「日本海軍艦艇図面集」に掲載されている、長門型戦艦の改装後の中央部構造切断図を見ると、バルジの内外に溶接記号が描かれています。下図赤矢印で示した外板の突き合わせ溶接記号は現在のものとは記述法が異なるのですが、内部のフレームとの接合が熔接である事から、バルジ外板も少なくとも中央部は熔接ではないかと考えます。

これらのことから、長門型戦艦の船体外板の構成は以下の通りと推察されます。
艦首と艦尾の水線上…段付け継手
同水線下…単板当金継手
バルジ中央部…上部=突合熔接、底部=重ね合わせ熔接

(本日分の画像は全てクリックで拡大表示します)

外板の接合方法、段付け継手と単板当金継手の違い


原書房刊「日本海軍艦艇図面集」
戦艦長門型(改装)中央部構造切断図より

20071024_1
艦首側の外板表現
水線上の水平面が凸モールドで段付け継手、
水線下とバルジが凹モールドで単板当金継手と熔接継手を表しているようです。
また、バルジと船体で水平モールドの位置は一致していません。

20071024_2
艦首・艦尾側の船底はそれぞれ一ヶ所
わずかにラインがズレている部分があります。


 今までの艦船キットで私が知る限りここまで外板表現にこだわったものはありません。根拠の有無は別としてもメーカーの努力は充分に感じられます。しかしながら、模型上の効果はまた別の問題で、個人的にはオーバーモールドだと感じます。

 実際のところ、全景写真では外板継目はほとんど見えませんし、接近して撮影した写真に段付け継手や重ね合わせ継手が見える写真はあっても、単板当金継手の外板接合部や熔接突合が見える写真などはほとんどありません。以前の説明で書いたように外板を突き合わせて裏から板を当てて留めるこの継手は、塗装がきちんと成されているならば構造上継ぎ目は直前まで接近しても見えないものです。何より船の模型は船体のラインの美しさや力強さが全体の印象に直結する最も重要な要素なのに、過剰なモールドがそれを損ねているように思えて仕方なく、せっかくの凝ったモールドも船体型の印象を変えるほど目立ってしまっては逆効果でしかありません。

 ただ、この修正はかなり厄介です。全ての外板モールドを埋めるのは舷窓や副砲付近の複雑な構造との兼ね合いで難しいため、バルジは舷外電路の上、また前後の船体は喫水線より上の外板モールドを残し、それ以外を全てを埋めるともう少しすっきりした印象になるのではないかと思います。具体的には、船体の凹モールドに沿ってPlastructなどの0.3mm丸プラ棒を貼った上で船体のラインを損ねないよう慎重に削り、全体にサフを吹けば比較的楽に整形できます(伸ばしランナーでも可能ですが、均一的に埋められるプラ棒の方が後の整形が楽で船体の削れも最小限で抑えられます。また、パテは細いモールドに沿ってひび割れや欠けたり肉やせする可能性があるためこの種の作業には向きません)。その際に複板当金継手の凸モールドも気持ち削った方が全体的に落ち着くかもしれません。

20071024_3
Plastructの0.3mm丸プラ棒を流し込み接着剤で接着し整形した状態
なお、プラ棒の接着に当たっては以前に触れた塗装マスクの着用が必須です。

20071024_4
素材の手持ちの関係で艦首より1/4までの処理で仕上げも不十分ですが
埋めることによる効果は大体わかると思います。
船体の力強さ、特にバルジの形状と巨大感が強調されてきます。

 以下続きます。



(訂正前原文)

 まずキットを開いた方がみな疑問に思われる事だろうと思うのですが、船体には全面に外板モールドがあり、特にバルジ部分を中心に航空機のパネルラインのような長方形状の凹モールドの表現が目を引きます。少なくとも私の記憶では艦船モデルにこのような表現を施したものはありません。

 モールドを良く見てゆくと、艦首部の水線下と艦底は先に書いた重ね合わせ継手を表現していることがわかります。艦首部の水平面が凸モールドになっていますが、これは恐らく複板当金継手の表側の当て板を、またバルジの長方形状の凹モールドは単板当金継手を表現したものと思われます。これらは陸奥の入渠作業中の写真から確認することができます。

 それで、このモールドの根拠についてはわかりませんが、私自身は全くの空想ではなく、何らかの根拠があってこのパターンにしたのではないかと推察します。艦首の外板の縦の幅が一様ではなく微妙にサイズが異なっている点が興味深く、いくつかリベット打ちの船を見た経験でも曲面を板で包む関係で外板の幅は一様には見えないのですが、これを空想でまとめると外舷の上部から艦底まで全て均一に揃えてしまうのではないかと思うのです。重ね合わせ・複板当金継手で構成された元々の船体に単板当金継手で作られたバルジを増設したと見れば、艦尾側の切り替えには疑問が残りますが、全く荒唐無稽な表現という訳でもないと考えます。

(本日分の画像は全てクリックで拡大表示します)
20071024_1
艦首側の外板表現
水線上の水平面が凸モールド(複板当金継手)、
水線下と垂直面が凹モールド(重ね合わせ継手)と違いがあるほか、
外板の水平面は喫水線のラインではなく最上甲板のラインから下に降りています。
また、バルジと船体で水平モールドの位置は一致していません。

20071024_2
艦首・艦尾側の船底はそれぞれ一ヶ所
わずかにラインがズレている部分があります。

 今までの艦船キットで私が知る限りここまで外板表現にこだわったものはありません。根拠の有無は別としてもメーカーの努力は充分に感じられます。しかしながら、模型上の効果はまた別の問題で、個人的にはオーバーモールドだと感じます。

 実際のところ、全景写真では外板継目はほとんど見えませんし、接近して撮影した写真に複板当金継手や重ね合わせ継手が見える写真はあっても、単板当金継手の外板接合部が見える写真などはほとんどありません。以前の説明で書いたように、外板を突き合わせて裏から板を当てて留める単板当金継手の場合、塗装がきちんと成されているならば、構造上継ぎ目は直前まで接近しても見えないものです。何より船の模型は船体のラインの美しさや力強さが全体の印象に直結する最も重要な要素なのに、過剰なモールドがそれを損ねているように思えて仕方なく、せっかくの凝ったモールドも船体型の印象を変えるほど目立ってしまっては逆効果でしかありません。

 ただ、この修正はかなり厄介です。全ての外板モールドを埋めるのは舷窓や副砲付近の複雑な構造との兼ね合いで難しいため、バルジは舷外電路の上、また前後の船体は喫水線より上の外板モールドを残し、それ以外を全てを埋めるともう少しすっきりした印象になるのではないかと思います。具体的には、船体の凹モールドに沿ってPlastructなどの0.3mm丸プラ棒を貼った上で船体のラインを損ねないよう慎重に削り、全体にサフを吹けば比較的楽に整形できます(伸ばしランナーでも可能ですが、均一的に埋められるプラ棒の方が後の整形が楽で船体の削れも最小限で抑えられます。また、パテは細いモールドに沿ってひび割れや欠けたり肉やせする可能性があるためこの種の作業には向きません)。その際に複板当金継手の凸モールドも気持ち削った方が全体的に落ち着くかもしれません。

20071024_3
Plastructの0.3mm丸プラ棒を流し込み接着剤で接着し整形した状態
なお、プラ棒の接着に当たっては以前に触れた塗装マスクの着用が必須です。

20071024_4
素材の手持ちの関係で艦首より1/4までの処理で仕上げも不十分ですが
埋めることによる効果は大体わかると思います。
船体の力強さ、特にバルジの形状と巨大感が強調されてきます。

 以下続きます。

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コメント

初めまして、
凸モールドですが、それはあて板を使ったリベット接合では無く、
joggled lap joint/段付き継手です。
ですから厳密に言えば凸モールドの段の一方は鉄板の断面が見えている直角の段で、反対側は若干なだらかなカーブになっています。
コレは陸奥の引き上げ写真などで詳しく観察する事が出来ます。
山城以降の日本の戦艦は水面上の部分はその継手が採用されています。
凹モールドの部分は、strapped butt jointで、内側にあて板を使ったリベット接合で、水の抵抗の低減を狙ったモノです。

ご指摘ありがとうございます。

momoさん、はじめまして。
もう一度手持ちの資料を読み直してみます。
とりあえず御礼まで。

内容を訂正しました。

 ご指摘通りの構造が理解できたので、記事を書き換えました。その過程で陸奥の引き揚げ写真を見る事もできました。わざわざのご指摘に深く感謝致します。

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