旧海軍艦艇の推進軸の「色」について。

2015–06–27 (Sat)
 長門型戦艦の外板の関連で防研史料閲覧室の図面関係を見ているうちに、こんな資料に当たりました。

「図学教科書 造船之部 昭和12年」
(防衛研究所史料閲覧室登録番号(6)技術-船体-15)

 横須賀海軍工廠の教習所で用いられたテキストのようで、海軍公式図面の種類と製図工場に於ける担当部署の割り振り、船殻構造や熔接・艤装などの規定がまとめられた80pほどの資料です。艦船の船体内部各部署別の詳細な塗装規定も書かれていましたが、一つ気になる記述がありました。

番號塗具ヲ施スベキ個所塗具ノ種類及囘<回>数
下 塗仕 上
(29)推進器及推進軸
a.推進器…………
b.推進軸…………

a.塗具ヲ施サズ

大正十三年十一月二十日付艦本普報第五號艦船推進
軸防触法ニ依ル

 模型の世界に於いて旧海軍艦艇の推進軸の塗装は、かつては見栄え優先で金色に塗られる事が多かったのですが、最近は銀色または艦底色とする作品が増えているようです。私は入渠中の写真の印象などから艦底色塗装が標準だろうと考えていたのですが、被爆横転した艦艇のカラー写真や映像では、練習艦出雲のように塗装されているものがある一方で、空母天城には塗装が認められません。先日述べた泉江三氏の「艦艇スケールモデルの作り方」では『実艦の軸は鍛鋼削り出しで仕上げたまま塗装しないのがほとんどである』(16回、世界の艦船1962年04月号p86)と書かれています。泉江三氏の「日本の戦艦 上巻」のp207には『プロペラ軸に於いて防触対策が必要であり、この場合には「被金」による方法が用いられる。これは海水に接する軸の部分の全長にわたり、制動下の円筒を焼きばめ、または圧入押し込みによって装着するものである』と書かれています。、

 上記の塗装規定では推進軸は別法に依るとあります。推進軸の塗装は吃水標等とは違って細かく図示するようなものではなく、一律規定ならばスクリューと同じく塗装するかしないかを記述するだけで良い訳ですから、その塗装には何らかの条件が存在する事が推察できます。

 ところが機関関係の艦政本部通達規定をまとめた「艦本機普報」はあるものの、「艦本普報第五號艦船推進軸防触法」の本文を記載した資料は防研史料閲覧室には見当たりませんでした。そこで国会図書館の近代デジタルライブラリーにある『海軍制度沿革 巻八』の艦船の項目を見てみたところ、p671-672に似たような法令がありました。

◎艦艇推進軸防触法
明治四十二年一月十五日(官房九〇)

 艦艇入渠ノ際推進軸々面ニ些少タリトモ侵蝕ノ傾向アルヲ認メ
 タル時ハ左ノ方法ニ據<拠>リ防触法ヲ實施スベシ
 推進軸々面ハ充分掻消淸掃ノ上曹逹溶液ヲ以テ軸面ヲ洗浄淸
 拭シ状態ニ依リ赤鉛ヲ一囘乃至三囘塗抹シ腐食部ニハ油漆喰<パテ>
 ヲ填充シタル後「アンチ、コロシープ、ペイント」ヲ一囘塗
 抹シ更に「アンチ、ファウリング、ペイント」一囘塗抹ス可シ
  但シ防錆塗料ハ毎囘塗抹ノ都度充分乾燥セシムルを要ス

 アンチ、コロシープ、ペイント(anti crrosive paint)は船底一号<下塗>塗料、アンチ、ファウリング、ペイント(anti fouling paint)は船底二号<上塗>塗料の事で、すなわち艦底外板と同じ船底塗料を塗る事を意味します。同一の法令は海軍の法令規則をまとめた『海軍諸例則 巻三』にも、p509 第十七類 艦船造修の項に於いて「艦艇入渠ノ際推進軸面侵蝕ニ注意」というタイトルで掲載されています。これは昭和10年6月1日改版なので、上記の艦本普報第五號艦船推進軸防触法よりも後のものになります。つまり細部に若干の違いがある可能性はありますが、防触法そのものの基本方針には違いが無いと推察できます。

 推進軸の塗装は防触対策で、侵蝕が認められた際に実施するのであれば、新造艦の天城の推進軸が無塗装で、艦歴の古い出雲のそれが塗装されていた事にも説明が付きます。目安まではわかりません し、海軍の規定で上述のように推進軸に被金が施されていたのか、他の腐食対策が施されていたのかも判りませんが、艦歴の古い艦は塗装し、竣工時または大戦中に竣工したような新造艦は無塗装=銀とすれば区別になるかもしれません。

 ただし、前にも書きましたが推進軸が艦底色の模型は個人的にはあまり見栄えを感じません。規定は知識として、各人の好みで処理して良いのではないかと考えます。

 この項は一応これで終わりです。

続・長門型戦艦の外板について

2015–06–20 (Sat)
 以前、長門型戦艦の外板について述べた際に、バルジの上方は熔接構造ではないかという指摘を受けました。改めて資料を見直してみたところ、原書房の「日本海軍艦艇図面集」p23に掲載されている長門型戦艦の改装後の中央部構造切断図に於いて、増設分のバルジの上方から下側に沿って所々に溶接記号が描かれている事に気が付きました。

原書房刊「日本海軍艦艇図面集」
戦艦長門型(改装)中央部構造切断図より
(この画像はクリックすると別窓で拡大表示します)

 少しわかりにくい図ですみませんが、赤で示したのが図面から読み取れる溶接記号と考えられるものです。赤矢印は突合熔接記号のように見えますが、現在の工業用図面で用いられるそれとは記述法が異なります。戦前にこのような記述法があったのだろうかと、当時の製図に関する書籍をいろいろ読んでみましたが、結局のところ確証を得ることはできませんでした。

 この図に於いては外板とフレームの接合位置に沿って、所々に丁継手の溶接記号が描かれています。これも現在のものとは若干異なるのですが、戦前にはこのような記述法が成されていたようです(「実用機械製図」産業図書刊<1946>、他)。フレームと外板の接合が熔接ならば、外坂同士の接合も熔接と考えても不合理はありません。

 ただし外板が重ね合わせ継手(緑の矢印)の底部もフレームとの接合は熔接となっています。以前に紹介した桜と錨の海軍砲術学校戦艦「陸奥」引揚解体写真集(公開終了)で、艦首(10)の写真のバルジ上端と船体の接合部や、船体(6)のビルジキール端部付近のバルジの艦底部の外板接合部などにリベット跡が認められる事から、部分によって接合方法が異なっていた可能性は考えられます。

 これらのことからハセガワ1/350長門の雑感の外板に関する部分を再び書き換えました。キットの対処法は『外板の凹モールドは全体的に過剰で、可能ならばバルジ部だけでも埋めたほうが良いのでは』で変わりありません。もしバルジの中央部上方が熔接突き合わせ構造であるならば、尚更のことあのようなパネルライン状の外板モールドは不要です。私が知る限り突合熔接構造の船体外板にモールドを入れたキットは、当のハセガワも含め他には存在しないからです。



 この関連で防研史料閲覧室に先日行った際に、船体構造とは全く別の部分で興味深い資料を目にしました。次回はこれについて書きます。

東京に行ってきました(その3)

2015–06–13 (Sat)
 前回の続き。


 次に向かったのは国会図書館。用事は幾つかの雑誌や資料の確認と複写でした。

 著作権の関係で複写物の画像は提示できませんが、かつて泉江三氏が1960年から66年に掛けて世界の艦船誌上に於いて「艦艇スケールモデルの作り方」という連載を行っていました。これは旧海軍関係の公式資料がほとんど公開されてなく、長谷川の旧版1/450大和や日模1/500高雄型が当時の組立模型のスタンダードだった時代に、船を船らしく作るにはどうしたらいいのかという視点で書かれたものです。

 連載そのものは未完で終わり、後に製作関連の記事の抄録と取り上げられなかったタイプ別の模型製作法を加えて出版されたのが海文堂の「軍艦の模型」です。従って同著とグランプリ出版の軍艦メカニズムシリーズを持っていれば必携という程のものではありません。現在の公式資料に基づく組立模型にエッチングを加えた製作スタイルとは時代がまるで違うので、そういう作り方がメインの人には直接参考になる部分はあまりありません。

 ただし、戦艦のビルジキールの中央部が前後端より幅が狭い艦が多いのは中央横載面での艦底の湾曲が他の艦種より小さいため(接岸やドック入りの関係でビルジキールの幅は艦底のベースラインと、最大幅の垂線を結んだ範囲より外に出てはならない)など、他では目にしない内容もあり、古雑誌で断片的には持っていましたが一度通して読みたいと考え国会図書館に行った機会に揃えたものです。



 国会図書館所蔵の世界の艦船のうち、創刊から2000年までの発行分はデジタルデータ化されています。その分の閲覧は館内の端末で参照する形式を取り、複写指示も端末で行います。デジタルデータからの印刷は転送量の関係からか解像度がそれほど高くないようで、実本からの直接複写よりもやや品質に劣る部分があります。また端末の複写指示も直感でできるとは言い難く、特にPCで印刷を行った経験のない方には設定方法がまず理解できないと思います。一応各端末に印刷方法の説明はありますが、初めて行うときは職員を呼んで一緒に行った方が良いかもしれません(この人達はそのためにいます)。

 実本は50年以上の歳月で紙が茶色に変質している関係で、複写も地が濃いグレーで仕上がります。これでも読めなくはありませんが、私は改めてPCにスキャンし明度を調整してプリントし直しました。今回は直接足を運びましたが、国会図書館の資料の複写はページや記事が指定できれば郵送依頼でも受け付けてくれます

 このように世界の艦船や丸の本誌など国会図書館で記事目録が作成されている雑誌は必要に応じて検索もコピーも容易にできるので、2000年以前に出版された分については個人レベルで古雑誌を全て揃える意味は今はほとんどありません。占有する場所も重量も半端ありませんし、所有しているだけで内容を把握できない資料は無いも同然です。複写ではわかりにくい写真などに限って改めて実本を求める使い分けがベターではないかと考えます。

 以下次回。

東京に行ってきました(その2)

2015–06–06 (Sat)
 3回前の続き。

 東京でまず向かったのは防衛研究所の史料閲覧室。長門の外板の関係ですが詳しくは後で書きます。

 次に行ったのは靖國偕行文庫という名前の図書室。靖国神社の中にあり、近現代の軍事や神道関係の資料が納められています。その中に艦船研究家の遠藤昭氏が寄贈した旧海軍艦艇の公式図が約800種類ほどあり、大和ミュージアムの公開資料にないものを中心に幾つか見てきました。

 概要は公式サイトの通りで特に書き加えることはありません。上の画像の靖国会館1F向かって右側がその場所になります。左側は参拝客の休憩所になっていて、便所も同一フロア内にあります。閲覧室の作りは普通の図書室と同じで、職員が詰めるカウンターと閲覧用の長机が4台、周囲に開架の本棚はありますが、大多数の資料は閉架の書庫にあります。閉架資料の閲覧方法は館内の端末で検索し申込票に必要事項を記入して職員に提出する手順で、一度に閲覧できるのは3件まで、それを越える場合はその都度申込票に記入→返却資料と共に提出を繰り返すことになります。


 ただし、靖國偕行文庫の蔵書検索画面は一度に10件しか表示しないので、館内の端末で検索していたら時間が幾らあっても足りません。幸い検索システム自体はweb上で公開されているので、これを元に準備できるものはできるだけ準備します。上の画像は遠藤昭氏が寄贈した資料の一覧表で、事前に電話し閲覧申込票に必要な記入項目(受入番号・図書記号・書名・著者名・請求記号・出版社)を確認した上で、webに表示される検索結果をそのままexcelに貼り付け、項目を抽出して印刷すれば比較的簡単に作れます。件数が少なければwebの検索結果を直接印刷しても代わりになります。

 なお、閲覧申込書で実際に職員が出庫のために見るのは受入番号・図書記号・請求記号の3項目なので、書名は表示された全てを書く必要はなく、例えば艦船の図面の場合は艦名と内容の頭数文字程度でも支障はありません。書名と出版社のフリガナも記入不要です。



 遠藤氏寄贈の図面は、全部で20種類強見てきた範囲ですが、いずれも公式図のネガポジを逆にした複写図で、見た範囲ではオリジナル(原資料の意)の図面はありませんでした。サイズも大型艦は75%程度に縮小プリントされているようです。また軍艦原図集第○○集と連番が入っているものは、かつて有償配布されていた資料のようです。

 図面のコピーは有償(A3/20円)で全範囲取れますが、いわゆるコピー機の複写でA3サイズ分割、上側面図で8~10枚程になります。また複写の更に複写なので書かれている文字などは判別が難しくなるものも少なくないようです。利便性ではデジタルデータから直接A3用紙×2~3枚に縮小プリントし、端末上で原資料との突き合わせもできる大和ミュージアムの複写図面のほうが優れていますが、トータルの費用も3倍以上でコストパフォーマンスを考えると微妙なところです。いずれにしてもこれでは使いにくいので、スキャンして画像編集ソフトで連結して清書し再出力したほうが良いかもしれません。

 以下次回。

短信

2015–06–02 (Tue)
 幾つか連絡事項を。

 フジミが1/350加賀を発表したときに感想をと書いた記憶がありますが、実際に出てきたキットは個人的に期待を下回る内容に留まり、どう書いてもうんざりする記事にしかならないので止める事にします。ただしフジミの1/350航空母艦-翔鶴型、飛龍、加賀には共通した問題があるので、そこには少し触れるかもしれません。

 前回書いたように1/100海王丸は右舷側前半部の形状修正に入っていますが、工程は既に行った左舷側と同じなので、作業が終わるまで記事更新は行いません。今週末からしばらくは先月東京に行って見てきた事柄について書くことにします。

 あと戦艦長門の外板についてはまだ調べている部分があるので、もう少し先になります。

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MOMOKO.120%

Author:MOMOKO.120%
職業:自営業見習い
趣味:ブログの通り
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現在は1/100初代海王丸の製作を一時休止して、ハセガワ1/350空母隼鷹を製作しています。

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