前回の続き。
軽巡洋艦総ざらいではなぜか解説から外されていましたが、艦載艇も模型を作る上で重要な装備品の一つです。艦種や時期によって構成が異なる事があり、大戦中に輸送任務に就いた艦の中には臨時に小発を搭載したり、大戦末期は機銃増設のために一部撤去されたものもあります。また5500トン軽巡のように一隻毎に一組のダビットが割り当てられている艦の場合、搭載されるダビットの形式にも一部違いがありました。
田宮の球磨・長良型のキットは阿武隈と五十鈴以外は共通で9m内火艇×1、9mカッター×3、11m内火ランチ×2、ダビットは全て甲板上設置タイプとなっています。これは発売当時に唯一広く世に知られていた昭和17年1月現在の多摩の公式図が元になっているようです。
ところが大和ミュージアムの公開資料を見てみると、内火ランチはその絵が描かれていますが、説明は11m内火艇で、加えて図面上の長さは9mカッターや内火艇と同じです。昭和19年3月現在の公式図ではこの部分の絵も11m内火艇×2に描き替えられていますが、ダビットは他と同じ甲板設置タイプのままです。
(この画像はクリックすると別窓で拡大表示します) 旧海軍に於いては内火艇と内火ランチを一括して内火艇と呼ぶ事もあったらしいのですが、阿武隈や川内などの公式図や写真では11m内火艇には舷側設置の一回り大きなダビットが割り当てられているので、11m内火艇にしろランチにしろ、対になるダビットが甲板設置タイプのままというのは理屈に合いません。しかも多摩の場合、田宮の箱絵の元になった昭和17年初頭撮影の有名な迷彩塗装の写真では左舷艦首側の1組のダビットが舷側設置タイプである事がわかりますが、17年の公式図には反映されていません。

日本海軍艦艇写真集より これらのことから、どうも現存する多摩の公式図は艦載艇とダビットの改訂に混乱があったようで、少なくとも17年当時は後述する鬼怒の公式図に近かったのではないかと考えます。
また、大戦中の阿武隈や名取の写真を見ると、長良型に於いては同じ設置タイプのダビットであっても仕様が異なるものが混在していたようです。阿武隈の舷側設置タイプのダビットが2種類ある事は
以前に述べましたが、名取は逆に甲板設置タイプのダビットに高低2種類が認められます。仕様の違いが何に依るものかは不明で他艦の状況もわかりませんが、少なくとも全艦に同一仕様のダビットを割り当てて済むような事柄ではなかったようです。

海軍艦艇史2より名取(昭和18年2月3日)
左舷艦首側のダビットが後方2組と高さが異なります。 ちなみに青島の川内型の構成は9mカッター×3、11m内火艇×2、9m内火艇×1でこれは昭和17年の川内の公式図に一致します。ただし説明書では11mと9m内火艇にW13(12m内火艇)とW12(11m)を指定していますが、これは明らかな誤植でW13→W12、W12→W11が正解です。またダビットは中央の11m内火艇用2組が舷側タイプですが背が他よりも高くキット指定のW23の部品では合いません(艦船模型SP No.29 5500トン軽巡掲載折込図参照)。他は甲板上に付きます。
鬼怒の昭和18年10月現在の公式図では、艦載艇とダビットは以下の通りとなっています。
右舷=艦首側から9mカッター×2、9m内火艇
左舷=同じく11m内火艇、9mカッター、
9m内火ランチ(説明は内火艇)、6m通船
ダビットは左舷艦首側の11m内火艇用のみ舷側設置大型タイプ、
他は甲板上設置(公式図上では右舷全てと左舷中央の高さは同一)
(この画像はクリックすると別窓で拡大表示します) 現在出回っている外部パーツで9m内火艇と内火ランチは私が知る限りピットロードの旧装備セット2の部品しかなく、表現的に難があるのでこれは使いません。この製作に於いては9m内火艇はウォーターライン共通パーツのW39を元とし、内火ランチは同じくW29の9mカッターを改造して作ります。従って表現を合わせるために9mカッターと11m内火艇も共通パーツの部品を元とします。
1/700の艦載艇用汎用エッチングは私が知る限りではフライホークから出ています。型番700058がウォーターライン共通部品(Wパーツ)用、700232がフジミ用です。両者は船体の型状が若干異なるので甲板パーツと架台に互換性がなく、構成にも若干違いがあります。
ここで用いるウォーターライン用は以下のパーツから成ります
・12m内火艇(W12)用×3セット(長官艇用船室×3、一般用幌フレーム×2)
・12m内火ランチ(W24)用×3セット
・9mカッター(W29)用×3セット
注意すべき点は内火艇・内火ランチ共に12m用のものしか用意されておらず、戦艦や巡洋艦に多く搭載されていた11m内火艇用の部品は含まれていません(フジミ用には11m内火艇の部品も入っています)。この製作に於いては11m・9m内火艇と9m内火ランチ用の部品が無いので内火艇に関しては12m用を切り詰めて使い、9m内火ランチは9mカッターの腰板を一部修正して用いることにします。
右上から11m・9m内火艇・9m内火ランチ、9mカッター、6m通船
6m通船は余りの部品より(たぶんピット旧装備セット6)
(この画像はクリックすると別窓で拡大表示します) 以下次回。