最後に所感をいくつか。
まず、これが人に勧められる事かと問われた場合、個人的には間違っても薦められません。既に市販品でエッチングパーツや金属パーツがあれば、それを購入することを勧めます。自作品は精度的に市販品には及びませんし、経費もそれなりにかかります。何よりエッチング液は模型の材料の中でも最もデンジャラスなもので後始末も面倒ですから、実も蓋もない表現ですが、
金で危険と手間が省けるのならばその方が良い、ということになります(スケールにも依りますが、市販品より安く上げようとして手を出しても恐らく期待通りにはならないと思います)。
ですから、この手法はこの世のどこにも市販されていない部品を製作または大量に量産する場合に「最後の選択肢」として考慮するのが妥当ではないかと、個人的には捉えています。もちろんエッチング槽といった大層なものを持ち出さなくとも、より小規模な道具で少量を製作する事も可能ですが、エッチング液の取り扱いや後始末に注意や手間がかかる事に変わりはありません。
作業の大まかな手順は以前にも書いた通り
藤崎ヒロ氏の解説の通りですが、量が多いためエッチング槽と専用の投げ込みヒーターを使い、処理を行う原板は上下に吊り下げの穴を開け、両面抜きの穴が開き始めた時点で上下逆に吊し替えています。空気で循環する槽の中でも水面近くと底の方では若干反応速度が違うようです。
アイロンによる原稿パターンの定着法は、従来の感光洋白板の露光による定着に比べてはるかに容易で費用も安く、天候や日中夜間にも左右されず、材料も自由に選ぶことができます。実際、作業途中でエッチングに失敗して夜中に追加で原版を製作した事もありましたが、原稿印刷から金属板の定着にマスキングまで15分ほどで仕上がりました。
ただし、これは0.3mmと多少厚手の真鍮板をメインに使った私の場合だけかもしれませんが、原稿の定着に多少ムラがあり、台紙を除去する過程でパターンの一部が剥がれてしまう場合が多々ありました。極細のレジストペンで修正することはできますが、製作する場合はパターン欠けやエッチングの部分的な失敗を前提に置いて、必要な数の2~3割増で作った方が良いかもしれません。台紙除去の消しゴムは全く要りませんでした。
今回は真鍮板とステンレス板の2種類のエッチングを行いましたが、脱脂の必要の有無は種類によって異なるようでした。真鍮板はホームセンターで売っていた10cm×5cm×3枚1セットのものが大きさ的にも丁度良かったので主に使いましたが、これはビニールの被覆がなく、脱脂してもしなくても原稿パターンの定着に大差はありませんでした。また0.1mm厚は福原金属のものを使いましたが、これも同様でした。逆に0.05mmやビニールで被覆された大判の0.3mm厚は脱脂しないと定着が良くありませんでした。アイロンによる定着はラッカーシンナーで拭けばいくらでもやり直せるので、テストの上で脱脂の有無を判断した方が良いかもしれません。
ステンレス板の処理時間は真鍮板の3~5倍かかり、エッチング液に長く漬けている分だけ定着したトナーが弱くなってゆきます。結果として思うような仕上がりにはほとんどならなかったのですが、これは検討の余地があるようです。
また、エッチングによる金属部品製作は、腐食液にそれなりの時間漬けているため、元の金属よりも多少強度が落ちるようです。これは大面積や厚みが大きい部品であったり、元々強度を必要としないものであれば影響はありませんが、小面積の部品では考慮する必要があるかもしれません。
エッチングの作業に当たっては手袋が必須です。1箱数十枚入りの台所用の使い捨ての手袋で作業の度にティッシュでくるんで捨てると良いようです。これはエッチング槽を使ったからかもしれませんが、作業中はかなり手が汚れますし、手に付いたエッチング液は石鹸で洗っても独特の金属臭が抜けません。作業の直後に手を洗っておにぎりをつかんで食べたらひどい下痢を起こした事もありました。
ざっとこんな所です。最初にも書きましたが、エッチング液は取り扱いも後始末も面倒なものですから、もし試みるのであればまず少量小規模でエッチング作業と液の後処理まで一通り行って手順を理解してから、製作に取り掛かる方が良いのではないかと考えます(このブログではいきなり道具を揃えて量産に掛かったように見えますが、実際はその前に後処理まで一通り試しています)。