艦船模型大全(後編)

2007–07–30 (Mon)
 1970年代とは、航空機やAFVに比べて立ち後れていた艦船模型のスケールの集約化、すなわち1/200と1/500で市場を固めつつあった日模から、静岡4社が提携した1/700ウォーターライン、及びピットロードに主導権が移っていった時代だと捉えています。またメーカーと製作者の橋渡し的な役目を果たしていた当時の模型誌の分野でも、先発のモデルアートがどちらかといえば製作者側の立場で、ある一定の価格帯までの中から、より良いキットが作れるための製作ガイドに重点を置いていたのに対して、後発のホビージャパンは対象年齢層が当時はやや高めで、編集方針も今とは全く異りスケールのより突っ込んだ考証記事や情報を提供し、子供には手が届かない高額キットの紹介も積極的に行って、激しい読者獲得競争を繰り広げた時代でもありました。

 70年代前半、日模が1/200と1/500で新製品が出る度に、ホビージャパン上に森恒英氏がペンネームで解説記事を書かれていました。キットの開発過程でのリサーチ内容を含んだ資料的価値の高いもので、上に挙げたホビージャパンの編集方針とも合致するものでしたが、それは70年代後半の日模の新規開発停止と共に終わりを告げることになります。対してモデルアートは長谷川藤一氏のウォーターラインキットの製作記事を経て、1977年から衣島尚一氏による連合艦隊講座が始まります。この連載が長期化する事によって、ウォーターラインとピットロードは新製品がほとんど出なかった80年代に次の世代の種をまくことになります。

 また、日本で帆船模型が一般に広まるきっかけになったのは、1976年7月のアメリカ建国200周年記念としてでニューヨークで大帆船パレードが行われ、初代日本丸が参加した姿が大きく報道された事ですが、ホビージャパンはそれ以前から帆船に関する専門知識や模型の製作記事を断続的に掲載していました。70年代末~80年代初期に掛けて輸入の木製キットや資料などが数多く出回るようになり、帆船模型が盛り上がる兆しが見られましたが、当のホビージャパンはこの時期、編集方針をAFV重視から次第にキャラクターモデルに切り替え始め、これら帆船のミニブームを支えることができませんでした。

 艦船模型大全はモデルアートの本ですから、視点がそれ側になるのは仕方のない事ですし、競争相手を評価できる訳がありません。それでも、艦船に限らず70年代のスケールモデル事情について語る場合に、ホビージャパンが果たした役割という点は避けて通れないのではないかと思うのです。また、70年代前半に「船のニチモ」とまで呼ばれたメーカーが、ウォーターラインの展開に対して製品的に対抗策らしいものをほとんど取らなかったように見える事も、主導権が移り替わってゆく大きな原因の一つだったと思うのですが、それに対する言及もありません。

 それらの視点がないため、上に書いたような(私の個人的な見方ですが)70年代に艦船模型の主導権が移り替わってゆく大きな流れというものが見えなくなってしまい、各社個々のカタログ的な製品の羅列に終わっている-特に日模と今井科学は時系列的な流れが掴みにくい-点が、多くの部分に於いて本の性格上やむを得ない事とはいえ、残念に思いました。

 それと、日模の製品開発が止まってしまった一因に1976年に発売した1/200陽炎型駆逐艦の販売不振があったはずです。これは現在では当然の完全ディスプレイの大型艦船モデルでしたが、なぜこのキットだけが動力模型ではなかったのか、そして当時市場に受け容れられなかったのは何を意味していたのか、動力模型が常識だった70年代初頭に展示模型にしかならないウォーターラインの企画の立ち上げに何の支障も無かったのかなど、「モーターライズからディスプレイへ」という1章を設けながらそれらの背景にあまり深く切り込んでいない点にも不満が残りました。


 長々と書きましたが、上に挙げた70年代の動向が把握しづらい事を除けば、大判カラーの上質紙で各時代毎のカタログやボックスアートが満載された、見ても読んでも非常に楽しい内容に仕上がっています。およそ船の模型に興味がある方ならば手元に置いて損はありません。作る意欲まで出てきそうな本です。

 また、この本を読み終えてつくづく感じたのは、「こと艦船模型の世界に限れば、仮にどんな勢いのあるメーカーでも、1社にできることには限りがある」という事でした。木製時代からの慣習を強く受けていたとはいえ、各メーカーがそれぞれにスケールもスタイルも異なった製品を、これといって明確な展望もないままに出しては各個撃破されてゆきました。せめてスケールの集約だけでも航空機と同じく1960年代に成されていたならば-36年前に始まったウォーターラインがそうであるように-この本に掲載され現在は市場から姿を消したシリーズの幾つかは現在でも生きながらえていたかもしれません。そういった思いにも駆られる1冊でした。

艦船模型大全(前編)

2007–07–28 (Sat)
20070728_1

 本日買った雑誌。概要はこちらを。

 モデルアート艦船模型スペシャルの別冊の扱いで、戦前から現在までの艦船模型の歴史を述べた本です。値は少し張りますが、懐かしいパッケージやカタログなどの写真が豊富に掲載され、それらを見るだけでもとても楽しい内容です。記事も興味深い内容が多く、船の模型に興味がある方ならば手元に置いて損はありません。

 ただ、誌面構成がわかりにくく、全体を見渡した流れの把握がややし辛いことと、日本のプラの組立模型が玩具から本格的な模型に昇華し、それをとりまく環境も激変していった1970年代の記述が、他の時代に比べてあっさり流されている点は少し気になりました。

 詳しくは次回に。

モデルアート増刊「モデリングガイド大和」のことなど

2006–06–27 (Tue)
 役者が着替え中なので、廃人への道はお休みします。

 雪風の雑感の中で、キットを作るために必要なテクニックブックについては触れませんでしたが、プラの組立模型をきれいに作るためだけなら、注意すべきことはそれほど多くはありません。現在入手可能な本の中ではモデルアート別冊の艦船模型テクニックブックをよく読めばコツは全て書かれています。

 艦船模型が抱える問題の一つに、最も有名なアイテムの難易度が高い、ということがあります。つまり戦艦大和は日本最大の軍艦で装備品が非常に多く、どのスケールであっても製作の手数がかかるために初心者が気軽に作れるキットとは言い難いのですが、大和以外をメインに持ってきても一般に関心を引かないというジレンマがあります。そのため間口を広げるという名目のもと、ハードルの高いキット(=戦艦大和)をいかに簡単そうに見せるか、という矛盾した視点で編集せざるを得ないため、結果的に似たような主旨の本ばかりが繰り返し出てくる、ということになります。もちろん初心者は常に入れ替わりますから、それに対する本が常に出ている事は重要ですが、既に出版された本がまだ在庫がある時点で似たような内容のものを出しても、「その存在意義は何?」と見える訳で…。

 先日出版されたモデリングガイド戦艦大和の印象も同様で、身も蓋もない書き方をすれば、上で触れた別冊テクニックブック(特にその2巻目)や季刊の艦船模型スペシャルなどを既に持っている人にとっては、目新しいものはほとんどありません。書店でこれと、学研の歴史群像No.54戦艦大和武蔵が並んでいたら、多くの模型愛好者はあと300円足して後者を選ぶのではないかとさえ思えます。「食玩で興味を持った層を取り込もうとしていたではないか」という反論があるかもしれませんが、もしそれが主旨であれば食玩の楽しさと奥の深さを徹底的に掘り下げた上で最後に組立模型の作り方「も」示すべきで、構成が逆になるはずです。あくまでも組立模型の視点から見た食玩、という切り口でしかないため、食玩で興味を持った人がはたして1800円も出してこの本を買ってくれるかというと、個人的には疑問に感じます。

 昨年の映画公開以来、戦艦大和や旧日本海軍艦艇に関する本が多数出版されました。全てに目を通した訳ではありませんが、中には従来の二次資料の孫引きで埋めたようなものも少なくなかったように見えました。モデルアートが「立ち位置」的に一貫して初心者の窓口にいることは充分承知していますが、艦船模型テクニックブックがまだ購入できる現状を考えた場合、それとは違う切り口を見せないと、映画公開に関連して出版された他の多くの大和便乗本と何が違うのか?という印象しか与えられないように思うのです。それが商売だと言われればその通りなのですが、とても残念な気がしました。

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MOMOKO.120%

Author:MOMOKO.120%
職業:自営業見習い
趣味:ブログの通り
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現在は1/100初代海王丸の製作を一時休止して、ハセガワ1/350空母隼鷹を製作しています。

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